コーチング中に、こんなやりとりがありました。
私(コーチ)「あなたの声には今、緊張がありますね」
クライアント「いいえ、そんなことはありません。」
こんなはずじゃなかったのに! コーチのトレーニングでは、変化を聞き分け、明確にするようにと言われます。私は彼女の声に変化を聞き取ったため、それが何であるかを想像し、彼女は何かを決断できない状態であると判断しました。トレーニングから学べていなかった点、つまりここでのミスは、その変化が何であるかを勝手に決めつけてはいけないということでした。ただ、変化があることだけを伝え、相手に聞くことが大事だったのです。
私の決めつけは間違っていた上に、私の発言は我々の間の信頼を壊しかねないものでした。しかし、彼女は想像力豊かで全てにおいてリソースフルな素晴らしいクライアントであったため、それを私に伝えてくれました。クライアントが何を体験しているのか自分は知っていると思いあがっていた私に、彼女の勇気が、間違いを直視する機会をくれました。
決めつけは罠になりうると、このことから私は学びました。鍵となるのは、それが決めつけ、ただの仮説だと理解しておくことです。私たちは、自分が知らないことを埋めるためにストーリーを創り出していることがあります。辞書でも“証拠なしに、正しい、もしくは起きそうなことであると認められること”と説明されています。
ドン・ミゲル・ルイスは、彼の本『四つの約束(The Four Agreements)』の中でこう警告しています。
“決めつけの問題は、私たちがそれを真実だと思い込んでしまうことだ! 私たちは、自分たちにとってだけ正しいストーリーを丸々創り出して、しかもそれを自分で信じ込んでしまう。一つの決めつけはまた次の決めつけを生み出す。そして、私たちは結論に飛んでしまい、私たちのストーリーはとてもパーソナルなものになってしまう。私たちは仮説を作り、それが正しいと信じるあまり、自分たちの仮説を守ろうとしてしまう…”
実際には、決めつけはもっと卑怯なものです。私たちはもっとそれを理解しておかないといけません。例えば私が道路を運転していたら、車が目の前に飛び出して、そのまま走り去っていったとします。私はその相手を無謀な愚か者だと決めてかかるでしょう。しかし、それが実は病院に急いでいた相手なのだと気づくことはまずないのです。
このストーリーは、次に何が起こるかも指摘してくれます。最初に決めつけがあれば、そこから次はすぐに何かを判断をしようとするのです。試してみてください。頭の中で何か仮説を立ててみてください、その次には自然と判断をしようとしていませんか。これは洞察力や賢さを測るものではなく、情報のサポートなしに、結論に飛ぼうとするプロセスです。これは人間なら誰でもすることで、同時に乗り越えることも可能な習慣のひとつです。
何かを決めつけ、そこから判断するという流れは、ついやってしまいがちな習慣です。とても簡単で、それでいて明確さがあります。知ることの快適さも提供してくれます。しかし、そこには嘘があります。コーチとして支払うべきコストは何でしょうか? こんなシナリオを考えてください。私のクライアントが泣き出してしまいました。私はクライアントが悲しいのだと考え、悲しみについての質問を投げかけます。しかし、もし私が自分の決めつけにあらがうなら、私はクライアントの涙の中に何があるのかを問いかけることでしょう。もしかしたら私は喜びの涙というものがあることを学ぶかもしれません。コーチングをマスターするためには、勝手な決めつけを行ってはいけないのです。それがどんな時であっても。
どうやって私たちは決めつけと判断から逃れることが出来るでしょうか? 答えはシンプルです。自分の頭の中の声が答えを創り出した時、それを意識してストップさせるのです。判断を急ぐ心は、相手への興味に置き換えましょう。答えを創り出してはいけません。あなたが理解できないことは、相手に尋ねましょう。そうすることで、あなたはクライアント自身が自分の中から明確なものを引っ張り出すことを手助けできるのです。
このスキルは、エモーショナル・インテリジェンスの核心部分にあります。自分の決めつけのトリガーを認識していると、自己認識が、それを相手への興味に置き換えてくれます。自分で答えを創り出す代わりに、自分の色で塗られていない純粋な驚きに出会うことができます。そうすることで、新たな可能性を見つけることにフォーカス出来ます。
あなたも、もし自分が知らないことを埋めるために決めつけを始めていることに気づいたときは、興味に置き換えてみてください。ストーリーを創り出し判断するトリガーに敏感になりましょう。これは、シンプルだとは言いましたが、簡単ではありませんのでご注意を。時には、クライアントを助けようとするあまり、相手に興味を持って質問することがとても難しいこともあります。そんな時私が学んだのは、相手のヘルパーではなくパートナーとなることで、よりものごとが明瞭に出来、価値を生み出すことができることもあるということです。決めつけをコントロールし、相手への興味を意識的に引き出すことは、私にとってコーチとしてとても大きなステップでした。
最後に、我らがICFでも挑戦に取り組んでいることをお伝えして終えたいと思います。組織として、私たちはブランドを強くし、信頼を高め、未来へ向けて社会の変革を起こしていくことにコミットしています。これらは時にあいまいになり、決めつけや判断を呼び込んでしまいます。私は、この変化について聞いたあなたにも、この場所に加わって欲しいと思います。クリエイティブで好奇心を持ち、変化する勇気を持つことを、一緒に提唱していきましょう。