世界経済フォーラム(WEF)が発行した最新の「Future of Jobs(雇用の未来)」調査結果では、AIにより今後5年間で最大1,400万人の雇用が消滅する可能性があると予測しています。対話型AIの技術は大きな進歩を遂げており、チャットボットによるAIコーチングなど最新テクノロジーの普及がコーチングの仕事に及ぼす悪影響、またはコーチの役割が不要になるかもしれないといった懸念を、人間のコーチが持つのは当然の流れかもしれません。
実際、AIが大幅な進歩を遂げたことにより、機械がより複雑なタスクを行ったり、人間の行動を模倣することが可能になっています。また、自然言語処理(NLP)のアルゴリズムや機械学習、予測分析によって、AIが人間のやり取りを理解して反応する能力はさらに高まっています。
とはいえ人間のコーチは、エモーショナルインテリジェンスや共感的理解など特有の能力を持っており、それはAIの能力を超えるものです。例えば、信頼関係やラポールを構築し、複雑な感情や状況に対処する能力は、人間が行うコーチングにおいて、AIがいまだ完全には再現することができない最も重要な要素だと言えるでしょう。
そうしたそれぞれの特性を踏まえ、AIは人間によるコーチングをどのように支援できるのでしょうか?この記事では、AIがプロコーチによるセッションを支援したり、事務処理やタスクを簡素化する方法をいくつかご紹介します。
コーチングセッションとクライアントリレーション形成への活用
まず、クライアントリレーションを管理したり、強化するためにAIを活用するさまざまな方法があります。例えば、AIのチャットボットを活用して、クライアントに情報やリマインド通知を送ったり、次回のセッションまでに試せる簡単なアドバイスを提供することができます。こうした方法により、コーチングセッションのコンテンツを拡充し、クライアントの長期的な行動変容の可能性を高めることができます。
また、AIから得た洞察とコーチングの専門知識を組み合わせることで、自分のコーチングのパフォーマンスを総合的に理解したり、改善を図る上で、より多くの情報に基づく意思決定を行うことができます。例えば、AIがクライアントの進捗状況を追跡し、これまでのセッションで話し合ったトピックをまとめてリマインドしてもらうことにより、コーチングの効果を高めることができるでしょう。また、AIに会話を分析してもらい、コーチングセッションの最後に情報を提供してもらうことも可能です。特定のテーマにどれだけの時間が割かれているかを集計したり、あるセッションでのコーチとクライアントの発言の長さを比較することもできるでしょう。
AIはリアルタイムでフィードバックを提供することもできます。AIは大量のデータを高速で処理できることから、セッションのトランスクリプト全体を分析してキーポイントを提供したり、セッションのパターンや傾向、改善点を特定することができます。こうしたリアルタイムのフィードバックは、速やかに変更を取り入れたり、コーチングへのアプローチを微調整する上で非常に貴重なものとなります。
つまるところ、AIを効果的に利用するには、思慮深く意図的であることが最も重要です。それでは、それぞれのクライアントに合わせ、人間が中心となって行う本来のコーチングの価値を損なわずに、AIやテクノロジーをあなたのコーチングプロセスに導入するにはどうしたら良いのでしょうか?
コーチングの業務効率化をAIが支援
『2023 ICF Coaching Snapshot: Future of Coaching(2023年ICFスナップショット:コーチングの未来)と題した調査結果によると、「AIによってコーチングの業務管理が簡単になると思いますか?」という質問に対して、アンケートに回答したプロコーチの29%が、「賛成する」または「とても賛成する」と回答しています。以下に、あなたのコーチングビジネスの中で、AIを活用できる3つの代表的な仕事を紹介します。
- 事務処理のサポート業務: AIチャットボットは、インテーク(クライアントとの相談内容や要望の確認)やオンボーディングなど、初期の問い合わせなどへの対応や、セッションの日時設定、請求書発行など、繰り返しが多い業務を支援することができます。
- 集客・マーケティング活動:オンデマンドの学習教材やブログ投稿、メルマガ、SNSキャンペーンなど、さまざまな集客活動にAIを活用して、画像やテキスト、動画を作成、再編集、再利用することが可能です。
- 効果的なセッションの準備:AI搭載のコーチングプラットフォームを利用することで、クライアントに関する情報を整理したり、ニーズや進捗状況に応じたリアルタイムのデータをクライアントに提供できるでしょう。セッションの準備を効果的に行うことで、クライアントのエンゲージメント向上が期待できます。
AIの進化は、コーチングのプロセスを強化するものではありますが、人間のコーチに完全に取って代わる存在ではないと言えるでしょう。コーチという職業は、人間の心と社会的知性に依存しています。コーチングを成功に導く上で、人間のコーチによる信頼や関係性の構築、それぞれのクライアントのニーズに応じた調整など、AIでは再現が不可能な人間らしさが、今後も基本的な要素であり続けると考えられます。
コーチングのトレンドや課題、AIの可能性については、ICFソートリーダーシップのグローバルデジタルライブラリーで詳しい情報をご覧いただけます。