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今回は、2014年2月号から、松本郁美氏に翻訳いただきました「The Science of Coaching Work/Life Balance ワーク・ライフバランスコーチングの科学」の記事を御紹介します。コーチはクライアントの抱えるストレスに、どのように対処すべきなのでしょうか?
CoachingWorld ISSUE9 February 2014
The Science of Coaching Work/Life Balance 「ワーク・ライフバランスコーチングの科学」

The Science of Coaching Work/Life Balance 「ワーク・ライフバランスコーチングの科学」
クライアントのワーク・ライフバランスがうまく取れていることは重要である。なぜなら、この「ワーク(仕事)」と「ライフ(生活)」の方程式では、「ライフ」の部分は、もう一方の「仕事」の部分を支える条件だからだ。
クライアントが仕事で直面するストレスに対処しようとするなら、足場となる生活環境を向上していく必要がある。
これがうまくいけば、ストレスや病気による休職、離職など、従業員が仕事から離れることによって発生する損失を削減することができる。
「ワーク・ライフバランスを考えるときには、ストレスが、家庭生活によって引き起こされている可能性もあれば、仕事によって引き起こされている可能性もあることに対しても…留意しなければならない。」
ストレスにはさまざまな種類がある。有益のストレスもあれば、中立のもあれば、長期にわたると有害なものもある。
ワーク・ライフバランスを考えるときには、ストレスが、家庭生活によって引き起こされている可能性もあれば、仕事によって引き起こされている可能性もあることに対してもコーチは留意しなければならない。
研究では仕事が大人にとっての最も大きなストレスであることが示されている。
アメリカ心理学会が実施した2012年「アメリカにおけるストレス」調査では、回答者の65%が、日常生活における重大なストレス要因として、仕事を挙げた。
しかし、コーチである私たちは知っての通り、クライアントの職場におけるパフォーマンスやストレス対処には、仕事以外の生活でのさまざまな出来事が大きく影響する。
クライアントの一日を、前提、本題、回復の三つの部分に区切って想像してみるとわかりやすいかもしれない。
前提
前提―朝の日課や通勤時間などを含め就業開始までの時間に起きた出来事―はクライアントの仕事のパフォーマンスを決定する重要な要素である。
クライアントの前提の中で最も重要な唯一の要素が、家庭生活、特に家族関係であると私は考えている。
個人のストレス負荷を計る尺度である社会的再適応評定尺度(別名HolmesとRaheのストレス尺度)では、ストレス要因の上位10項目のうち、家族関係に関するものが8つ含まれる。
クライアントがストレスからの回復力を高めるのに使える手法としては:
・役割を明確に切り分ける
家庭では、クライアントが、パートナーであり夫や妻である自己を、また親としての自己を認識し注意を向けること。
・仕事に完全に集中する
仕事中に私用の電話に出ると、ストレス回復力は低下する。
・身体の健康状態を維持する
より健康的な食生活を送り、毎日最低30分は運動するようクライアントの意欲を高める。
本題
職場自体のストレスレベルの程度を考慮する必要がある。
仕事によって状況はさまざまである: 2013年、CareerCast.com社が毎年実施しているストレスの最も低い仕事と最も高い仕事を調べる調査では、大学教授と宝石職人がストレスの最も低い職業であった。
その対極にきたのが、軍人、消防士、法執行官である。
対処力を高める手法としては:
・自分の枠を広げる
クライアントは、いつノーと言い、いつイエスと言うべきかを知っていなければならない。
・ストレスのサインに気づく
クライアントがストレスの警告サインを認識できるようコーチする。例えば、心拍数の増加、気そらし、静止しているのに汗が出るなど。
仕事がある日に、定期的に休憩したり、より時間をかけて歩いたりすると、ストレス解消に役立つ。
・心を込めて物事を行える力を養う
クライアントが活動や仕事から自我を切り離す方法を習得するのを支援する。
回復
あなたのクライアントには、困難な状況に陥ったときに力を貸してくれるような緊密な仕事仲間がいるか。
職場以外での強力な支援のネットワークはどうか。
あなたのクライアントは、仕事以外の時間を使って、地域に対してボランティアで貢献しているか。
ボランティア活動は、気分を明るくし、ストレスを軽減してくれるが、消防団や地方自治に関わるなど、ストレスの高い責務になると、必ずしもこれは当てはまらない。
クライアントは次の方法で立ち直る力を高めることができる:
・長めの距離を歩いて家に帰る
家に着くまでの間に、職場から物理的、時間的距離を置くことは、家庭生活にも仕事生活にもプラスの効果がある。
・新しいことをやってみる
クライアントが何か新しいことにトライしたり、新しい人に出会ったり、珍しいものを食べたりするよう促す。
・充電する
機械的に門限を設定することで、クライアントは就業日に「スイッチオフ」の状態を作りやすくなる。それによって、クライアントは職場から解放された状態で、より安らかに思い通りに時間が過ごせるようになる。
ストレス度測定
社会的再適応評定尺度は、1960年代後半にThomas HolmesとRichard Raheが、人生で一般的に起こりうるストレスの高い出来事が、個人の健康や幸福に与える影響の大きさを調べるために開発した。
それぞれの出来事に割り当てられた平均値(生活変化単位値と呼ばれる)は、無作為に抽出した多数のサンプルに対し、それぞれの出来事が、どの程度の精神的打撃を与えたかを聞き取り決められたものだ。
個人の社会的再適応評定尺度の合計は、直近12ヶ月間で経験した、あるいは、近い将来経験すると予測されるような人生を変えうる出来事の値を足し合わせたものだ。
1つの出来事を2回以上経験した、あるいは、今後経験すると予想される場合には、その値は発生回数分だけ掛け合わせる。
生活変化値の評価表(ストレステスト)
実施方法
表の左列の出来事が過去10年間に起きた、あるいは、近い将来起こると考えられる場合には、その数値を書き写す。
その出来事が過去あるいは今後に2回以上起こる場合には、この数値を出来事が発生した回数分だけ掛け合わせる。
評価
人間の体は、精密に調整された機械のようなもので、思いがけない出来事を嫌う。
体に影響を及ぼす突然の刺激を受けること、つまり、体が慣れ親しんだ決まった手順に再調整を加えることは、不要なストレスを生み、体全体の機能が混乱する。
次の表は社会的再適応評定尺度を大まかに計るヒントになるだろう。
健康状態が私たちが望む最適な状態である。つまり、不健康は回避すべき状態である。
生活変化単位値が高ければ高いほど、よい状態に戻るのに労力がかかる。
Thomas H. HolmesとRichard H. Raheの「社会的再適応評定尺度」(1967年出版、心身医学研究に掲載)を元に作成。