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【CoachingWorld】The Communication Cure「コミュニケーションこそが、組織を治療する」

コーチングワールドICFでは年に4回、コーチングワールド(CW)という情報誌をオンラインとpdfで発行しています。
オンライン版であれば、会員でなくとも、誰でも自由に閲覧することができます。

ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください

今回は、2013年11月号から、芝田英生氏に翻訳いただきました「The Communication Cure」の記事を御紹介します。医師育成コーチとして30年以上にわたりヘルスケア領域で活躍してきましたジョイ・ゴールドマン氏による、へルスケア分野においてコーチングを活用するためのフレームワークの御紹介です。


CoachingWorld ISSUE8 November 2013
The Communication Cure
「コミュニケーションこそが、組織を治療する」

The Communication Cure
ジョイ・ゴールドマン Joy Goldman
RN (リサーチ・ナース, 訳注1), MS (マスター・オブ・サイエンス, 訳注1), PCC
Joy はエクゼクティブコーチ、医師育成コーチとして30年以上にわたりヘルスケア領域で活躍してきました。医師を始めヘルスケア領域のリーダーのパートナーと共に「構造的変化」を起こしたり、ヘルスケアのサービスや提供価値の向上に努めてきました。彼女は Viewfinder Coaching & Consulting の代表で、ICF Maryland 支部の理事も務めています。

 ヘルスケア領域におけるコミュニケーションは、米国Institute of Medicine(IOM)により1999年に発表された画期的なレポート「間違うのが人間-より安全な医療システムの構築」で大変注目を集めました。レポートは、医療ミスにより年間44,000~98,000人の患者が命を落としている、としています。患者治療や管理の専門家の間におけるコミュニケーションの改善を目的とした努力には、医療への介入、例えばちょっとした日々の打ち合わせや医師と看護師間のコミュニケーションを良くするためにメモ書きを使用する等、といった手段も含まれています。コミュニケーションの不足が、医療ミスの最大の原因であることが明らかになりました。

 「医師と病院スタッフとの協力関係の改善:促進させるカギと必須要素」というタイトルの、ヘルスケア事業ソリューション・プロバイダーであるHealthStream社が2008年に発行した白書ではでは、医師の満足度を向上させる要因が調査され、5つの必須要素のトップの2つが、活発なコミュニケーションと、協力して意思決する事ということであることが明らかとなりました。コーチングは、ヘルスケアの分野で益々積極的な役割を担うようになってきており、それは鍵となるリーダーやチームの継続的な行動変容を有効に促すからです。

 本稿では事例を用いて、コーチングがどのように医師のリーダー達を育成し、分野を超えたコミュニケーションを改善してゆくかを示します。また、へルスケア分野においてコーチングを活用するためのフレームワークを提供します。

The Physician / 医師

 ドクターFは、郊外型のある大きな病院システムの品質保証担当副社長(VP)です。彼は、軍に所属していた時代には外科医として勤務し、長年優良臨床医としての実績をもっています。彼は質の高い「アウトカム」(訳者注2)とEBM (訳者注3)に熱心であり、管理監督者として質の高い「アウトカム」を遂行していく上で大きな影響力を持っていると考えていました。ドクターFは、(病院システムの)CEO(経営責任者)が彼のぶっきらぼうで素っ気なく、無礼とも取れるコミュニケーションスタイルについての医師や看護師からの苦情が増えるようになり、リーダーシップコーチングに紹介されてきました。彼は、批判的で独断的と受け取られていて、その結果、看護師や医師のリーダー達は彼を避ける傾向にありました。彼はいつも直接フィードバックされたいと語っていました。しかし、他のリーダー達や彼の直属の部下たちは、ドクターFへの直接フィードバックは自分たちが受けるであろう反応を考えるとどうも不安になりました。ドクターFは、決断は直ちに下されるべきとしており、そのことにより、彼の組織内において、フィードバックを受けて承認されるというプロセスと、しばしば矛盾を起こすことがありました。ドクターFは彼の新しい役職に就くと、医師たちに「ケアの質を高めること」と時間通り手術を始めるよう、医師たちに言って聞かせなくてはなりませんでした。ドクターFが臨床業務を行っていた時には多くの医師が彼に批判的であったという事実があるため、こういったディスカッションは複雑な問題でもありました。

The Transition/リーダーシップの変移

 ドクターFの物語は、臨床のリーダー達が新しい役割に適応してゆく際に直面するいくつかの共通の問題を表しています。

表 リーダーシップの変化:臨床医から管理監督者の場合
The Communication Cure
 表には、医師がリーダーシップを求められる立場に変わった際によく経験する「変化」が幾つか示されています(訳者注4)。2011年のO’Brien グループによる白書によると、Gordon Barnhart はこの現象を「医師のむち打ち」と呼びました。普段は、「生き死にの問題」を抱える患者に対応し、素早い評価・判断と治療が求められる一方で、管理監督者の立場では大きな絵を描き、多くのステークホルダー(利害関係者)や専門家を巻き込んでゆくことが求められています。医師のリーダー達は、他の医師からフィードバックを受けたり、「遅い」「官僚的」や非効率的な現状から変化するために「時間」が必要であると判断する危険性があるでしょう。こういった考え方は、「変化」を引き起こすために必要とされる人たちと協働したり、巻き込んだりしてゆく能力を発揮できなくする事につながります。

The Coaching Model/コーチングモデル

 医師のリーダー達と共に作業してゆく上で、AGPE (Awareness, Goals, Practice, and Evaluate and Sustain)という 「コーチングモデル」が役立つことが明らかになりました。そのモデルでは、「インサイド・アウト」(訳者注5)、すなわちビリーフ、感情や引き続き起こる行動が結果・成果につながると考えられます。Alexander Caillet が ”Think Path Model” で述べているように、我々が考えたことが感情に影響し、感情の変化が行動に影響するのです。(思考ではなく)行動が結果を決めることになります。

 コーチとして私たちは、360度フィードバック調査だけでなく行動やモチベーションの評価を通して気付きを与えています。私が使った中で効果が高かったツールに、カナダPersonal Strength社の”SDI, Strength Deployment Inventory”(訳者注6)があります。モチベーションとコミュニケーションの取り方の違いを即座に理解し、矛盾と対立を管理できるようにするものです。私のクライアントが「どのように他人により良く影響するか」を学ぶときにも、課題に向かうことに反対する人をどのように上手く扱うかを学ぶ点がカギになりました。医師たちにコーチングした経験から、「インタビューによる360度フィードバック調査」なら、疑わしいデータに頼るのではなく、彼らが語ってくれた「ストーリー(による情報)」が豊富であることが明らかになりました。クライアントは、データが同僚から直接得られるために、その妥当性には余り疑問を持ちませんでした。

医師のリーダーシップ 有効性モデル
The Communication Cure

 次の段階(AGPEのG)は、クライアントの「目標」です。多くの医師は、自分が何者であるか総合的に知る事に興味を示す初めての機会になります。人生の殆どを「完璧であること」「きっちりとできる」ことに当てているクライアントにとって、コーチングは脆弱と不完全になれる機会を提供します。目標は、測定可能で、クライアントともし可能ならスポンサーである組織にとっても意味のあるものに設定します。

 ひとたびゴールを設定したら、新しいスキルと行動のリハーサルができるようにプランを創ります。クライアントの言葉で、実施を促す「変化へのささやかなテスト」と「演技」を決めるようにします。ヘルスケアの分野では気が重いですが、演技や即興の心を促すと、いつもは否定的な判断や失敗と受け止めていた習慣を打ち破ることも可能になります。リーダーは、矛盾と対立を管理するためにも違う行動(例えば、「言い渡す」代わりに「お願いする」)をとらねばなりません。また、望まない事に不平を言う代わりにやってほしいことを率直に要求するといった練習をすることも必要です。行動で示すといった言葉以外のアプローチも、気付きを生み出したり、感情の動きに磨きをかけたりとリーダーシップを向上させるには大変有効です。すぐに結果につなげたい学習者には、身体を使った実践は役に立つでしょう。

 最後に、リーダーが新しい行動が望ましい結果に有効につながっているか評価し、プランを修正し、持続的な行動を助け新しいスキルが定着することを助けてくれるような鍵となるパートナーを彼(女)の周囲で見出してゆけるよう、コーチはパートナーシップを発揮します。

The Outcome/成果

 ドクターFは自責なタイプではなかったため、自分の行動を上手く管理し他人を非難しないような能力を発揮できるか、私は不安に感じていました。私は彼のこれまでの人生の物語を知り、評価結果をレビューし、コーチングのために適切で計測可能な目標を設定するために2日間の面談を予定しました。また、我々はCEOにお会いし、どの領域に集中するか、どのような成果が望ましいと考えるかを確認しました。

 幾らかのディスカッションの後、ドクターFはどのようにして更に有効なリーダーになるかを学ぶ機会を得ることができました。彼は、自分に直接のフィードバックしてくれた人がいなかったことに驚きましたが、そのことは、周囲が彼にフィードバックし易くなるか、あるいは周囲を遠ざけるように行動するのか、と論ずるプラットフォームとして活用することができました。

 毎週もしくは2週間に1回電話でコーチングすることで、ドクターFは新しい行動を試し、関係性を向上させる実際の関わりを周囲の方々と持つことができました。我々は、望ましいと考えられる重要な会話やロールプレイの台本をおさらいしました。彼は、相手の優先順位を確認する問い掛けを練習し、組織を通じて鍵を握るリーダーと強いパートナーシップを結ぶことができました。以前は意見を異にすることの多かった院長とも、院長にとって何が問題かを理解し、彼の目的の中で好ましい変化を起こすことによって、上手くパートナーとなることができたという成功を活き活きと語ってくれた事を決して忘れることはないでしょう。

 ドクターFは、病院システムの安全を重視する文化を更に高めるため、品質保証担当副社長に昇格した。また、コーチングの結果、彼は人と人との関係性がテーマとなる安全性の文化を高めることができました。コーチングを受けることで、ドクターFは、高い基準を設定する彼の強みがまた、同僚や部下に「厳格で手厳しい」と理解されてしまい、彼の重荷にもつながることを理解できました。他人は認められ、励まされることが、たとえ自分自身のモチベーションが上がらなくとも必要であると理解しました。コーチのサポートを受け、ドクターFは病院システムのCEOと良い関係を構築できるようになりました。CEOは、ドクターFの「他の人に対して責任を果たす」という強みに感謝するようになりましたが、この特性はCEO自身も育成しようとしていたものでした。ドクターFは強いパートナーシップを構築できるようになるにつれて、医師や看護師のリーダー達が彼に対して言葉をかけ近づく事を恐れなくなりました。その結果、彼は再入院率や院内感染といった品質指標の数値を改善する事ができました。

 コーチングは、ヘルスケア領域におけるコミュニケーションの改善に、実際に具体的な効果が認められました。コーチングは、ヘルスケア領域におい鍵となるリーダーやチームの見方や態度に影響を与えることによって、患者の安全とヘルスケアの文化に有効な変化を継続的に引き起こすことができるのです。

【訳者注釈】

1) リサーチ・ナースは、医師のsupervision の元で、風邪・腹痛といった比較的軽症の患者の診断・治療を提供します。アジアの国々で医師免許を所得している医師で、アメリカでRNとして働いておられる方も大勢おられます。マスター・オブ・サイエンスは、4年間の大学を卒業後、2年間修士課程に当たる post-graduate school (この場合はサイエンス系)を修了したという学位です。

2) Outcome:単に「成果」という概念ではなく、外形的な結果と実際に社会にどんな影響を与えたかを合わせた概念。QOL(Quality of Life)などが含まれます。

3) EBM, Evidence-based medicine : データに基づいた医療

4) 当然です。医師や弁護士等は、「困ったとき」だけ頼りにされる職業です。患者に対するリーダーシップは「トップダウン」型です。しかし、医療チームを率いるリーダーシップは「コーチ」型、サーバントリーダーシップが求められるので、新たにゼロから身につける必要が出てくるのが普通です。

5) これまで、多くの企業ではアウトサイドイン、つまり結果に対する目標値から施策をブレイクダウンするアプローチがとられていました。時代は変わり「低成長」「創造性」そして「透明性」の時代です。困難な数値目標から入り、社員や取引先を疲弊させ、顧客に失望を与えるアウトサイドインのアプローチは、すでに非効率な手法となってきています。これに対して、インサイドアウト、つまり内面から変革していく取り組みは根治から「変化」を目指しています。ヒンズー教に「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」という教えがありますが、これこそがインサイドアウトのアプローチに当たります。

6) http://www.personalstrengths.ca/what-sdi

著者:ジョイ・ゴールドマン Joy Goldman RN (リサーチ・ナース), MS (マスター・オブ・サイエンス), PCC

ジョイ・ゴールドマン Joy Goldman RN (リサーチ・ナース, 訳注1), MS (マスター・オブ・サイエンス, 訳注1), PCC Joy はエクゼクティブコーチ、医師育成コーチとして30年以上にわたりヘルスケア領域で活躍してきました。医師を始めヘルスケア領域のリーダーのパートナーと共に「構造的変化」を起こしたり、ヘルスケアのサービスや提供価値の向上に努めてきました。彼女は Viewfinder Coaching & Consulting の代表で、ICF Maryland 支部の理事も務めています。 訳注1) リサーチ・ナースは、医師のsupervision の元で、風邪・腹痛といった比較的軽症の患者の診断・治療を提供します。アジアの国々で医師免許を所得している医師で、アメリカでRNとして働いておられる方も大勢おられます。マスター・オブ・サイエンスは、4年間の大学を卒業後、2年間修士課程に当たる post-graduate school (この場合はサイエンス系)を修了したという学位です。

Originally written in English by Joy Goldman.
Coaching World, Issue 8, November 2013, pp.11-13

http://icfcoachingworld.com

翻訳:シバタコーチングオフィス代表/C&S メンタルヘルスパートナーズ(株)代表取締役 芝田英生 氏

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