昨年の夏、あるクライアントから、アルツハイマー病との長い闘病の末に亡くなった父親に関してのコーチングを依頼されたことがありました。当時、私の実父もアルツハイマー病の長い闘病生活の末、余命数週間の状態でホスピスに入院していました。
私は、これは難しいことかもしれないと思いながらも、クライアントを引き受ける決断をしました。幸いなことに、このコーチングのやり取りは電話によるものでした。私はセッションの間中、断続的に顔に涙が流れるのを感じていました。すでにセッションを始めていたので、その時は自分の感情をコントロールし、クライアントに集中することに全力を尽くしました。
アポイントメントの後、私は、このクライアントと話を進めるのは倫理的に良くないという結論に達しました。私は、この時、クライアントが必要としている方法で、クライアントに寄り添うことができませんでしたし、プロとして振る舞おうとすることもできなかったのです。私はクライアントの安全を確認し、このことを報告しました。そして、私は従業員および家族支援プログラムの中でコーチとして働いているため、クライアントは別のプロバイダーに割り当てられることになりました。
これまでにも何人かのクライアントが、感情の自己規制能力を高めるために、コーチングを受けたいと言ってきました。しかし、コーチである私たち自身の感情の自己規制についてはどうでしょうか?
悲しみの波が押し寄せたとき、あなたはどうしますか? 恐怖心については? 怒りは? セッションの中でこれらの感情が出てきたとき、あなたはどのように自分の中で感情を管理しますか? クライアントが感情を表現したとき、どのように自分自身をうまく管理しますか?
この記事では、コーチングプロセスにおける感情の自己規制の重要性とその位置づけを、コーチが理解する手助けをしたいと思います。自分の感情を尊重し、検証し、認めることのバランスを保つ一方で、感情がコーチングのプロセスや自分とクライアント両方の関係性と幸福を妨げないよう、感情の自己規制スキルをどのように開発したらよいかをお話ししましょう。
感情の自己規制とは何か、なぜコーチングで重要なのか?
感情の自己規制とは、私たちが自分の感情を如何にうまく管理するかということです。コーチングの存在感を示し、コーチングの思考法を取るためには、コーチは自分の感情を理解し、処理し、規制することができる必要があります。コーチはクライアントをサポートすると同時に、クライアントの感情表現やコーチ自身の感情的な経験に対する自分自身の反応をうまく管理する必要があります。これは、次のことを意味します。
- クライアントが表現する感情を心地よく受け止め、その感情に対する自分の感情的な反応や応答をコントロールすること。
- セッション中に出てくるかもしれない自分自身の感情を心地よく受け止め、その反応と応答をコントロールすること。
自分自身とクライアントの中の両方において、感情は避けられないものです。自分の感情をコントロールすることはできませんが、自分の感情との関係や相互作用はコントロールすることができます。
感情は決断や行動、そして結果を左右しますが、抑制されていない感情や感情そのものを不快に思うことは、クライアントの進歩やコーチングのプロセス、そしてプロのコーチであるあなたにとって、マイナスの影響を与える可能性もあります。
自分自身やクライアントのネガティブな感情を、あなたが不快に感じていることを示す兆候:
- 涙を見せられるとすぐにクリネックスに手を伸ばす。
- 不快な感情に対処するためにユーモアを使う。
- 話題を変えたり、そらしたりする。
- とりとめもなく話し続け、沈黙と空間を許さない。
- 身体の感覚:汗をかき、そわそわし、動き回り始める。
クライアントが感情をあらわにするときは、次のようなポイントが役立ち得る:
- 感情と距離をとる。
- 相手の感情を認め、妥当性を確認する。
- 感情を判断しない。
- 表向きの表現が、クライアントが内面で経験していることだと決めつけない。
- クライアントのテーマに沿うようにする。出てきた感情や思考を処理することが、クライアントの目標に到達するための一歩だと感じるなら、クライアントとテーマを確認し、それを進めることがそのアポイントメントの目標になるよう、調整する。
- 共同調整と拡大抑制戦略を試す。これらは、あなたとクライアントの両方が感情をコントロールするのに役立つ。例えば、深呼吸をする、低くゆっくり話す、着地のテクニックなど。
- 必要に応じて、セラピーや他の医療専門家に紹介する。
コーチとして強い感情が湧き上がってきたときの自己規制の戦略
理想的には、セッションの外で集中して取り組みたいものです。コーチングセッション中に難しい感情が湧き上がってきたときにそれを抑制しようとすると、クライアントではなく自分自身に集中してしまうのです。 ここでは、試してみたい5つの戦略を紹介します。
1. 自己認識を継続的に培う。
感情を抑制する前に、その感情とその根底にある思考や解釈を特定し、理解し、処理する必要があります。自分にとって何が起こっているのか? コーチングの反省日誌をつけると効果的です。
2. 自分のトリガーを知る。
そして、それらに対処する準備ができているのか、それとも一歩下がって根本的な考えや解釈に向き合う必要があるのかを確認します。
3. 利益の相反に気を配る。
もし、自分にそのクライアントを引き受ける能力がないと感じたら、倫理的ガイドラインに従って、そのクライアントを他のコーチや医療専門家に紹介します。
4. 専門家の助けやサポートを得ること。
セッション以外に自分の感情に対処する時間を作ります。
5. セルフケアと健康管理の計画をしっかり立てる。
感情の自己規制は目的地ではありません。継続的な練習と意識的な努力が必要であり、そのためには健康的なレベルでのストレスと生活のバランスが必要です。
クライアントと感情を表現し、共有することはOKです! 感情の自己規制とは、感情を抑えたり、押し殺したり、ロボットのように行動することではありません。セッションにおける感情の役割は、クライアントとの関係や共感によって変わります。これによって、信頼、共感、傾聴のレベルさえも強化することができます。 あなたにとって望ましくないのは、あなたの感情が焦点となり、クライアントの体験から遠ざかってしまうことです。
クライアントは喜んでではなく、ただ安全に帰る必要があるだけなのです。このことを忘れないで下さい。