ソーシャルメディアの私のタイムラインには最近、失敗を受け入れ祝福するように私を促すようなスローガンが相次いで表示されるようになっています。「失敗:それは最高の学ぶ機会」「失敗とは、我々がそこから学べば成功のことである」「失敗が個性を作り出す」などなど。理論上はどれも良いのですが、では、実際にクライアントが勇気を出し、自分を信じて失敗を恐れずに踏み出し、学んでいくために、私たちはどのようにサポートしたら良いのでしょうか?
マインドセット・セオリー:迷信を打ち破る
「失敗から学ぶ」という考え方については、(スタンフォード大学の心理学者)キャロル・ドゥエックによる硬直型マインドセットと成長型マインドセットの研究の中で言及されています。学校の生徒たちと行ったドゥエックの研究では、頭の良さを褒められ、自身の才能は不変的な生来のものだと考えている生徒は、失敗を避け、より難しいことへの挑戦を選ばないことが発見されました。逆に、努力や根気強さを褒められた生徒は、失敗を成長や前進のための機会と捉え、より困難なタスクに挑戦します。
多くのプロフェッショナル・ディブロップメント・プログラムが、成長型マインドセットについて言及しています。このコンセプトは、教育のセオリーからビジネスへ、リーダーシップ・ディブロップメントからコーチングへと分野を越えていっています。この考え方は、私のセッションでも、クライアントが凝り固まったものの見方を変化させ、成長の可能性を信じることができるようになるのに役立っています。また私は、ドゥエックの発見に対する反対意見や、それに対しての彼女の反論である「間違ったマインドセット」などについても興味を持ち、情報を追っています。このマインドセット・セオリーをコーチングに取り入れる時は、よく繰り返される2つの誤解に気を付けなければいけません。
マインドセットの迷信その1:結果ではなく努力を褒めるべき
多くの成長型マインドセットの支持者は、ドゥエックの研究を、最も大切なのは結果ではなく努力を褒めることであると捉えています。ドゥエックはそれは誤りであると言っています。代わりに、2016年のThe Atlanticでのインタビューでこのように解説しています。「結果を出す、あるいは学びのプロセスとしての努力を褒めましょう。努力だけではなく、戦略が大事なのです。学生が今とは別の戦略を探すのをサポートしてあげてください。」
学生は、あなたがなんの成長にも結び付いていない努力を褒めていればすぐにそれに気づきます。それはコーチングのクライアントも同様です。コーチングのコンテクストでいうなら、逆風に直面した時にも負けないようようサポートするのは、ただ励ますということではありません。私たちは、彼らが過去に成功した戦略を振り返り、実際に新しく試す戦略を見定めるのを手助けするのです。彼らがそうするためのサポートを提供しなくてはなりません。過去の戦略と同じやり方で努力するのは、同じ結果しか生みません。
更に、ドゥエックはこうも言っています。学生は、いつ手助けを求めるべきなのか、彼らが手にすることが出来るリソースをどう使うべきなのかを知る必要があります。コーチングではリソースとは外的なものと内的なものがあるとしており、いつその助けを借りる(受け入れる)べきかを学ぶのは、私の経験上、コーチング・プロセスの大事な瞬間であるように思います。
マインドセットの迷信その2:人は、硬直型/成長型、どちらか一方のマインドセットを持っている
硬直型マインドセットか、成長型マインドセットか。他人や自分をラベリングする誘惑に反して、現実というのはもっと曖昧さを含んだものです。全ての人間は能力を伸ばせる可能性を秘めている(成長型マインドセット)と信じる人でも、何かのきっかけに硬直型マインドセットになることはあり得ます。コンテクストによるのです。鍵となるのは、そのトリガー(きっかけ)を認識することだとドゥエックは言っています。これは明らかにコーチングの領域です。私たちコーチは、人が、凝り固まった考えを打ち破り、自らの中にある反対や妨害をしたくなる心のトリガーを自ら認識することを手助けします。ドゥエックは、自ら新たなペルソナ、“マダム・パーフェクト”を自身のトリガーとして創り出しています。
なぜ失敗するリスクを冒すのか?
しかし、そこにはまだ疑問が残っています。「なぜ人は、自身が間違いを犯し、欠点を外に見せることになるような場に身を置くのか?」 答えの一部は、“超一流”に関する研究の中にあります。“超一流”の科学についての研究者K.アンダース・エリクソンは、もしあなたがある特定の分野において一流だと認められたいなら、“計画的訓練(deliberate practice)”、今のあなたの力量や心地よさにあったレベルを超え、今出来ないレベルのことを出来るようになるためのタスクにフォーカスした訓練をしなくてはならないと言っています。卓越するということは、難しいとされる分野で努力と実践を続けるということです。あなたが自分でしていることについて考えると同時に、そこに専門のコーチからのフィードバックを組み合わせることなどは、これにあたります。
私がコーチングをしたクライアントの場合、一つひとつのパフォーマンスより、答えの方が大事なことが多くありました。それはより大きな大義や全体の利益に対してのコミットメントであり、成長し、成功するとはどういうことなのかについての新しい定義から現れてきます。最後に、研究者の2人、アシュリー・ブキャナンとマーガレットL.カーンは、新しい「ベネフィット・マインドセット」、一人ひとりの成果やパフォーマンスや成長を超えて、明確な目的のある共同のコンテクストを持つことを提案しています。彼女達はこのように説明しています。「ここでは、目的主導の、リーダーシップをベースにしたマインドセットによって“成功”というものを定義しなおしています。ベスト・イン・ザ・ワールド(世界で一番)になることだけではなく、同時にベスト・フォー・ザ・ワールド(世界のための一番)になることが、それです。」
これこそは、失敗のリスクを冒すに足りるゴールではないでしょうか?