ICFでは年に4回、コーチングワールド(CW)という情報誌をオンラインとpdfで発行しています。オンライン版であれば、会員でなくとも、誰でも自由に閲覧することができます。
ICF日本支部では、翻訳ボランティア会員の協力を得て、このコーチングワールドの記事をピックアップして日本語に翻訳し、日本の皆様に世界のコーチング状況をお伝えして参ります。これは将来的には会員専用コンテンツになる予定です。こうした活動を御支援いただくために、是非、御入会を御検討ください。
今回は、2016年11月号から、牧野内正雪氏に翻訳いただきました『未来の仕事のためのコーチング』の記事を御紹介します。
未来の仕事のためのコーチング
コーチとして私たちは、「今の彼ら」としてのクライアントと会う必要があります。しかし、クライアントが自分自身の現状や今の目標に集中しすぎるあまり、未来を見ることが出来なくなっていることに気づくこともままあります。そんな時コーチとして私たちは、自分のクライアントが未来のトレンドに目を向け、仕事と私生活の双方において適切で満ち足りた状態を保つための戦略を発展させられるように、サポートすることができます。
11項目あるICFのコア・コンピテンシー(国際コーチ連盟が定める核となる能力水準)は、私たちがコーチングにおいて一貫性のある体系立てられたアプローチをする助けになってくれます。人口統計的、経済社会的、地政学的、あるいはテクノロジー的なトレンドが急激に変化し、変わり続ける現状に直面する中で、将来の仕事に向けて適切な舵取りをしようとするクライアントをコーチングする時には尚更です。
下記のコア・コンピテンシーは、こうした課題に対して特に有効です。
- 積極的傾聴(Active Listening)
- 人を動かす質問(Powerful Questioning)
- 気づきの創造(Creating Awareness)
- 行動のデザイン(Designing Actions)
- 計画とゴール設定(Planning and Goal Setting)
これらのコンピテンシーを念頭に置きながら、メガ(大きな)トレンドと未来の仕事について近年発表された解説を見て行きましょう。
世界経済フォーラムの「仕事の未来」
2016年1月スイスにあるダボスで行われた世界経済フォーラム(World Economic Forum/WEF)では、いわゆる“第四次産業革命”と、未来の仕事とスキルについて大きくとりあげられました。WEFは2つの大きなカテゴリー、「人口統計/社会経済」および「テクノロジー」に分けて、時代の変化の要因となる様々なことがらを挙げました。それぞれ5つずつ、特に大きな要因となるものを挙げると、
人口統計/社会経済:
- 「仕事」の性質の変化、柔軟化
- 新興市場でのミドルクラスの出現
- 気候変動、天然資源
- 地政学の不安定さ
- 消費者の心理、プライバシー問題
テクノロジー:
- モバイルインターネット、クラウド技術
- 処理能力の向上、ビッグデータ
- 新たなエネルギー供給とその技術
- IoT(モノのインターネット)
- シェアリング・エコノミー、クラウドソーシング
テクノロジーは時代の変化の重要な要因ですので、コーチである私たちはクライアントとの対話にオールラウンドに対応していくため、上記のトレンドなどを押さえておく必要があることでしょう。
メガトレンド
WEFと同様に、いくつもの利益団体やシンクタンク、プロフェッショナルの協会などが特定の国、産業、プロフェッショナルに関連するメガトレンド(5年~20年に渡るトレンド)にアプローチしています。2016年オーストラリアのCommonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO).による、「Tomorrow’s Digitally Enabled Workforce」もその一例です。
CSIROのレポートは労働者に影響がある6つのメガトレンドを挙げています:
- 急激な技術の変化
- デジタル技術とプラットフォーム・エコノミーの登場による境界のあいまい化
- 労働者間での起業家的なマインドセットの必要性の向上
- 仕事場での文化と世代の多様性
- スキルの障害の増加
- サービス業で続く成長
これらのメガトレンドの意味は、個人、企業、コミュニティー、そして政府にとって重要です。CSIROのレポートは、新しいスキルとマインドセットは未来のために必要であることを明確にしています。そのためには、教育や生涯学習、デジタルに関するリテラシー、STEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学)スキルが重要になります。私が見たところでは、人によってはArt(芸術)の大切さを反映し、SETMに“A”を足してSTEAMにするべきだという人もいるようです。
これらのメガトレンドは、変化し続ける労働市場に機敏に対応していくために、コーチたち、そしてそのクライアントにも心構えとマインドセットの変化を求めています。CSIROは焦点を当てるべき分野として以下の様なものを挙げています:
- 人口統計と消費者のニーズや好みの変化など、様々な仕事への認識の変化
- 新しいビジネス、雇用のモデル
- シェアリング・エコノミー、フリーランスなどの増加
クライアントに問うべき質問を問えるようになるために、コーチとして私たちはこれらのトレンドとその意味を知って置くべきでしょう。
未来のコンピテンシー
2014年、コーン・フェリーは38のコンピテンシーから成る、世界中の仕事で求められるリーダーシップの新たな構造モデルをリリースしました。これらのコンピテンシーはあらゆる団体において、入門レベルの貢献者から、幹部レベルのエグゼクティブまで、その雇用の役割をデザインするのに用いることができます。
コーン・フェリーはポジション・レベルごとに、コンピテンシーとプロモート力の相関性を特定するリサーチを行いました。コーン・フェリーによると、最高幹部レベルでは、コンピテンシーのトップ6は:
- 革新を育む
- 素早い学習
- ネットワークの構築
- たくさんのリソースを持つこと
- 決断のクオリティ
- 複雑なもののマネージ
コーン・フェリーは学習の素早さが未来のポテンシャル、プロモート力、パフォーマンスを予測するカギとなると特定したいくつかの組織に属しています。私たちはこれらを念頭に置きながら、コーチング・プログラムをデザインしていく必要があります。
変化の範囲とメガトレンドは、組織と個人のどちらにも影響を与えます。クライアントのために、私たちはこれらの変化に置いていかれないように併走していかなければなりません。これらの知識をICFのコア・コンピテンシーのフレームワークと組み合わせることで、私たちはクライアントの将来と現在のプロフェッショナル、そしてパーソナルな成功をサポートしていくことができるのです。